深淵の色は・佐川幸義伝を読んで
作家、津本陽氏の遺作となった本作を読んだ感想です。
大東流合気柔術(武術)の達人、故・佐川幸義先生の生涯と、
そのお弟子様が見た素顔の師匠の記録です。
大東流合気柔術(武術)は合気という技術を用いて相手の力を奪ってしまいます。(会派により合気の定義に差異が見られる)
老齢の達人に屈強な男がどんなに力強く掴みかかっても、まるで赤子の手を捻るように吊り上げられ床に投げ倒される様は、まさに神技と呼べるものです。
鍛錬の内容は詳しく広くは公開されなかったようですが、男のロマンを掻き立てるものがあります。
千回単位で行われたとされる四股踏みや振棒鍛錬、特に体を鍛えることを重視されていたそうです。
今の私に一番響いたお言葉で、
「人には上も下もない。だから、私はどんなに偉いといわれる人の前でも、緊張することは無い。人間は未完成だから、どこまでいっても、これでいいということはないんだ。だから常に努力を怠ってはいけない」
佐川幸義先生が仰られたようです。
私は沖縄古伝空手を修業しています。
武術家として、一人の人間として、佐川幸義先生の生き様は畏怖の念を抱くと共に大変魅力的で憧れます。
後半の佐川先生の御子息への想い、御子息とお弟子様との想いでは思わず涙が出てしまいました。
流派は違いますが、武術の深淵の色を見るべく今後の稽古に精進したいと思います。